新しい道具を入れた日の、最初の数分を思い出してください。画面は開いた。カーソルは点滅している。それなのに手が止まる。何から打てばいいのか、わからない。ChatGPT を会社に入れてみた経営者の多くが、ちょうどここで立ち止まります。道具は目の前にあるのに、自分の仕事のどこに当てればいいのかが見えない。これは能力の話ではなく、地図がないだけの話です。
その地図になりそうなものが出ました。2026年10月26日、OpenAI の経済研究チームが、仕事での ChatGPT の使われ方をまとめたデータを公開しました(広がる ChatGPT の仕事の世界)。対象は約100か国、165種類の業務活動。教材の準備やマーケティングの制作物づくり、プログラミング、ビジネスデータの分析まで、個人ユーザーが仕事のどんな場面で ChatGPT を使っているかを、研究者が調べられる形に整えたものです。新しい機能ではありません。あくまで「みんなが何に使っているか」を見られるようにした、研究者向けのデータです。
で、あなたの会社はどう読むか
ここから我々が持ち帰れるのは、たぶん一つだけです。AIを何に使うかを、頭の中で大きく考えない。
迷うのは、使い道を自分でゼロから発明しようとするからです。でもこのデータが示しているのは、すでに世界中の人が、ごく日常的な仕事に当てているという事実のほうです。文章の下書き、資料づくり、数字の読み解き。派手な話ではありません。だからこそ真似しやすい。
面白いのは、使い道が一か所に集まっていない点です。すべての四半期で記録がそろった74か国では、上位10種類の活動が占める割合が、各国の平均で2025年第1四半期の56.0%から、2026年第3四半期には51.1%へ下がりました。一部の目立つ使い方に偏っているのではなく、地味な仕事に少しずつ広がっている、と読めます。OpenAI はこの違いについて、国ごとの仕事の種類や道具へのアクセスの差を映している可能性があると書いています。断定ではなく、可能性として、です。
RASHIN の見立てでは、中小企業がやることは、この地図の上に自分の会社を一点だけ置くことです。先月いちばん時間を取られた事務仕事を一つ思い浮かべる。それがこのデータに並ぶ活動のどれかに近ければ、まずそこだけに当ててみる。全部を一度に変えようとしない。地図は全体を見るためのものですが、歩き出すのは一歩からです。
試してみるなら
無料のアカウントでも、次の一文がそのまま入り口になります。むずかしい設定はいりません。打ち込む題材を一つ用意するだけです。
- 自分の仕事の棚卸しから始めるなら、こう入力してみてください。「私は(業種)の会社を営んでいます。毎週くり返している事務作業を10個あげて、そのうちAIに下書きさせやすいものを3つ選び、理由を一言ずつ付けてください」
- 具体の作業が決まっているなら、こう頼みます。「取引先へのお礼メールの型を1つ作ってください。社名と要件を後から差し込めるよう、空欄を【 】で残してください」
- 数字の読み解きに当てたいなら、表をそのまま貼り付けて「この表から気づく点を3つ、専門用語を使わずに教えてください」と添えます。
どれも、今日の仕事の中から題材を一つ持ってくるだけで動きます。
つまずきの先回り
- このデータは個人向けの ChatGPT プランの利用が対象で、企業向けプランや開発者向けの Codex は含まれていません。社内で配っているアカウントの傾向とそのまま同じとは限らない、と見ておくほうが安全です。
- 使われ方の分類は、米国の職業分類(O*NET という枠組み)をもとにしています。日本の仕事の地図そのものではありません。順位や割合を自社の実感に重ねすぎず、使い道のヒント集として読むのがちょうどいい距離です。
- 入り口で自社の仕事を打ち込むとき、取引先名や個人情報、社外秘の数字はそのまま貼らないでください。業種や作業の種類だけでも、返ってくる答えは十分に具体的になります。
地図が配られたからといって、明日から道が変わるわけではありません。変わるのは、迷う時間のほうです。世界中の人が当てている先が見えるなら、自分の会社でどこから当てるかも、少しだけ決めやすくなります。まずは先月いちばん手を焼いた事務仕事を一つ、紙に書き出す。AIに渡すのは、その次で構いません。
出典(一次情報):広がる ChatGPT の仕事の世界(OpenAI公式)