伝票を片手に持ったまま、もう片方の手で電卓を叩く。棚の在庫を数えながら、頭の中で発注のメモを組み立てる。事務所の机に戻るころには、さっき思いついた「あの取引先への一言」は、たいてい消えている。中小企業の一日は、両手がふさがっている時間の集まりです。キーボードの前に落ち着いて座れる時間のほうが、むしろ短い。

7月23日、OpenAIがChatGPTの音声機能をパソコンのアプリに広げました。これまで声で話しかけられるのは主にスマホでしたが、MacとWindowsのデスクトップアプリでも、マイクに向かって話すだけで指示を出せます。上位のプランでは、ChatGPT WorkやCodexという「作業を任せる相手」に声で仕事を振り、途中で口をはさんで進み具合をたずねることもできる。詳しくはOpenAIの案内にあります。

で、うちの会社にとっては

派手なのは「複数のAIに声で同時に仕事を振る」ところですが、そこはまだ、開発の現場や大きな組織の話です。ツクバの中小企業にとって近いのは、もっと手前の一点だと考えられます。パソコンの前で、打つ代わりに話せる。この差だけでも効いてくる場面がある、と考えられます。

たとえば、電話を切った直後。受話器を置いて内容を打ち込もうとすると、もう半分忘れている。そのかわりに「今の電話、A社の納期が一週間ずれた。木曜に折り返す。メモにして」と声で流し込めば、机に座り直す前に一件片づく。手が乾いていない、書類を抱えている、そういう「打てない数十秒」を拾えるのが、パソコンで声が使える意味だと考えられます。わざわざスマホを取り出すより、画面を開きっぱなしのパソコンに話しかけるほうが早い時も多い。

もう一つ、地味に効きそうな場面があります。パソコンで見積書や図面を開いたまま、その画面を見ながら質問したいとき。スマホだと、資料は目の前のモニターにあるのに、手元の小さな画面へ打ち直すことになる。パソコンのアプリで声が使えると、資料を映したまま「この見積の合計、税込みでいくらか計算して」と、視線を動かさずに聞ける。見ているものと、話す相手が、同じ机の上にそろう。これも、スマホの音声とは別の使い勝手だと考えられます。

試してみるなら

まずは音声の入り口を開くところから。パソコンのChatGPTアプリを開き、画面の下にあるマイクの形のボタンを押します。初回はマイクの使用許可を聞かれるので、許可を選んでください。

最初の一声は、短い口述筆記が向いています。こう話しかけてみてください。「今から言うことを、箇条書きのメモにまとめて。取引先の名前と、次にやることだけ残して」。そのあと、電話や打ち合わせの中身をそのまま声で話す。言い終えたら「以上」と言えば、整った箇条書きが返ってきます。清書は、あとで机に戻ってから直せばいい。

慣れてきたら、返信文の下書きも頼めます。「A社への詫びのメール、二文で。堅すぎない言葉で」と話しかけると、たたき台が出ます。ゼロから打つより、直すほうが速い。

数字の絡む用事にも向いています。手元の請求書を見ながら「税抜き八万円の品を三つ、消費税一割で税込みの合計は」と声に出すと、その場で答えが返る。電卓を探すより早い日があります。声で聞いて、目で確かめる。この順番だと、打ち間違いも減ります。

つまずきの先回り

一つ目。声で仕事を任せる相手であるWorkやCodexは、Plus・Pro・Business・Enterpriseなど上位のプランが前提です。無料の範囲では、まず「話した言葉を文字にする」ところから始まると考えておくのが安全です。自分のプランで何ができるかは、実際にマイクを押して確かめてください。

二つ目。声はデスクトップアプリの機能です。ブラウザで開いたChatGPTや、会社で配っている共有パソコンでは、アプリが入っていないと使えません。使う端末にアプリを入れておく必要があります。

三つ目。静かな事務所ならいいのですが、工場の中や来客の多い窓口では、周りの音を拾って誤変換が増えます。声で放り込んだメモは、そのまま送らず、目で一度なぞる。この一手間は当分いります。

明日の朝、電話を一本切ったら、机に座り直す前にパソコンへ一言だけ話しかけてみる。うまく拾えたら、それが最初の一件です。

出典(一次情報):ChatGPT Voice(OpenAI公式ヘルプ)