契約書のPDFを開いて、二回読み直す。自動更新の条項はどこだったか。金額の後ろに小さく添えられた但し書きを、見落としていないか。届いた見積を並べて手で比較表を作っていると、気づけば昼が過ぎている。こういう事務は、派手ではない。けれど、一日の時間をいちばん溶かすのは、たいていこの手の書類仕事だ。
7月27日、Anthropicが、大きなIT会社のCognizantとのパートナーシップをClaudeで一段広げると発表した(発表はこちら)。社内の三万人以上がClaudeの研修を終え、あるバイオ製薬企業の導入先では、契約書レビューにかかる時間を最大四割減らすのに役立った事例が紹介されている。大きな会社どうしの握手だ。あなたのような小さな会社には縁遠い話に見えるかもしれない。
でも、持ち帰れるものが一つある。この発表が挙げた事例には、地味な仕事も並んでいた。契約書のチェック。書類からの数字の抜き出し。保険の引受の下調べ。発表では、その引受の下調べを助ける仕組みで、その導入先では担当者一人あたり週におよそ八時間ぶんの手が空いた、とも書かれている。どれも、机の上でいちばん時間が溶ける、地味な事務だ。大企業が本気でAIを入れにいった先の一つが、そこだったと言える。
ここから一段だけ、考えを進めてみる。同じ理屈は、規模を小さくしても効くのではないか。契約書の条項を三つだけ確かめる。届いた書類から数字を拾って表に直す。やっている中身は、大きな会社も社員五人の会社も、そう変わらない。だから、大手の導入先で最大四割減らすのに役立ったその作業は、あなたの会社でも軽くできる余地があると考えられます。
もう一つ、この流れが進むと、AIに触れる入り口も変わっていくと考えられます。自分でChatGPTに登録する、という入り方だけではなくなる。いつも使っている会計ソフトや業務システムの更新に、AIが最初から入って届く。今回のCognizantは、その「道具の中にAIを埋め込む」動きを大きくやって見せた例だと読める。あなたの会社が身構えるより先に、道具の側がAI付きになっていく。
試してみるなら
大企業の発表を待たなくても、書類の仕事は今日から試せる。無料でできる範囲から始めればいい。
- 手元の契約書PDFを開いて、ChatGPTやClaudeに貼り付け、こう入力してみてください。「この契約書で、自社が特に注意すべき点を、金額・期限・自動更新の三つに絞って箇条書きにしてください」。全文を読む前に、当たりがつく。
- 見積書が数枚たまっているなら、まとめて貼って「この見積を、金額と納期と保証の三列の表に並べ直してください」と入力してみてください。手で表を組む時間が浮く。
- 取引先から届いた長いメールも同じ手が使える。本文を貼って「この連絡で、こちらが期限までにやるべきことだけを、日付つきで箇条書きにしてください」と入力してみてください。読み落としの防波堤になる。
- 画面の操作はどちらも同じ場所だ。ChatGPTは入力欄の下にあるクリップ(添付)のマークを押してPDFを選ぶ。Claudeも入力欄の同じ位置に添付ボタンがある。ファイルを貼ってから、上の文をそのまま送る。
つまずきの先回り
便利だが、翌週につまずきやすい点も先に置いておく。
- 契約書や見積書には、取引先の名前や金額が入っている。無料版のAIは、入力した内容が学習に使われる設定になっていることがある。機密の書類を貼る前に、設定画面で学習をオフにできるか確かめる。心配なら、社名や金額を伏せてから貼るのが安全だ。
- 今回の発表でも、その導入先での書類からの抜き出しの正しさは八八パーセント超とされている。十割ではない。AIが出した要点は下書きとして受け取り、最後の確認は人がやる。ここを飛ばすと、見落としをAIのせいにできないまま契約してしまう。
- 「業務システムにAIが最初から入る」流れは、まだ大企業向けが先だ。あなたの会社の会計ソフトに届くのは少し遅れる、と考えられます。ただ、待つ必要はない。ブラウザで使えるAIに書類を貼るところから、先に慣れておける。
明日の朝、いちばん気の重い書類を一枚だけ選ぶ。それをAIに貼って、注意点を三つ挙げさせる。出てきた三つを自分の目で確かめて、直す。それだけでいい。三万人の研修も、四割減も、始まりは誰かの机の上の一枚だったはずだ。
出典(一次情報):Cognizantとのパートナーシップ拡大(Anthropic公式)