契約書のPDFを開いて、二回読み直す。自動更新の条項はどこだったか。金額の後ろに小さく添えられた但し書きを、見落としていないか。届いた見積を並べて手で比較表を作っていると、気づけば昼が過ぎている。こういう事務は、派手ではない。けれど、一日の時間をいちばん溶かすのは、たいていこの手の書類仕事だ。

先週、大きなIT会社のCognizantが、AnthropicとのパートナーをClaudeで一段広げると発表した(発表はこちら)。社内の三万人以上がClaudeの研修を終え、ある契約書レビューにかかる時間を四割ほど減らした事例が紹介されている。社員三十五万人の会社どうしの握手だ。うちのような小さな会社には縁遠い話に見えるかもしれない。

でも、持ち帰れるものが一つある。この発表がAIの活躍する場所として名指ししたのは、派手な仕事ではなかった。契約書のチェック。書類からの数字の抜き出し。保険の引受の下調べ。発表では、その引受の下調べを助ける仕組みで、担当者一人あたり週に八時間ぶんの手が空いた、とも書かれている。どれも、机の上でいちばん時間が溶ける、地味な事務だ。大企業が本気でAIを入れにいった先が、まさにそこだったと言える。

ここから一段だけ、考えを進めてみる。同じ理屈は、規模を小さくしても効くのではないか。契約書の条項を三つだけ確かめる。届いた書類から数字を拾って表に直す。やっている中身は、三万人の会社も社員五人の会社も、そう変わらない。だから、大手が四割減らしたその作業は、うちでも軽くできる余地があると考えられます。

もう一つ、この流れが進むと、AIに触れる入り口も変わっていくと考えられます。自分でChatGPTに登録する、という入り方だけではなくなる。いつも使っている会計ソフトや業務システムの更新に、AIが最初から入って届く。今回のCognizantは、その「道具の中にAIを埋め込む」動きを大きくやって見せた例だと読める。うちが身構えるより先に、道具の側がAI付きになっていく。

試してみるなら

大企業の発表を待たなくても、書類の仕事は今日から試せる。無料でできる範囲から始めればいい。

  • 手元の契約書PDFを開いて、ChatGPTやClaudeに貼り付け、こう入力してみてください。「この契約書で、うちが特に注意すべき点を、金額・期限・自動更新の三つに絞って箇条書きにしてください」。全文を読む前に、当たりがつく。
  • 見積書が数枚たまっているなら、まとめて貼って「この見積を、金額と納期と保証の三列の表に並べ直してください」と入力してみてください。手で表を組む時間が浮く。
  • 取引先から届いた長いメールも同じ手が使える。本文を貼って「この連絡で、こちらが期限までにやるべきことだけを、日付つきで箇条書きにしてください」と入力してみてください。読み落としの防波堤になる。
  • 画面の操作はどちらも同じ場所だ。ChatGPTは入力欄の下にあるクリップ(添付)のマークを押してPDFを選ぶ。Claudeも入力欄の同じ位置に添付ボタンがある。ファイルを貼ってから、上の文をそのまま送る。

つまずきの先回り

便利だが、翌週につまずきやすい点も先に置いておく。

  • 契約書や見積書には、取引先の名前や金額が入っている。無料版のAIは、入力した内容が学習に使われる設定になっていることがある。機密の書類を貼る前に、設定画面で学習をオフにできるか確かめる。心配なら、社名や金額を伏せてから貼るのが安全だ。
  • 今回の発表でも、書類からの抜き出しの正しさは八割台だった。十割ではない。AIが出した要点は下書きとして受け取り、最後の確認は人がやる。ここを飛ばすと、見落としをAIのせいにできないまま契約してしまう。
  • 「業務システムにAIが最初から入る」流れは、まだ大企業向けが先だ。うちの会計ソフトに届くのは少し遅れる、と考えられます。ただ、待つ必要はない。ブラウザで使えるAIに書類を貼るところから、先に慣れておける。

明日の朝、いちばん気の重い書類を一枚だけ選ぶ。それをAIに貼って、注意点を三つ挙げさせる。出てきた三つを自分の目で確かめて、直す。それだけでいい。三万人の研修も、四割減も、始まりは誰かの机の上の一枚だったはずだ。

出典(一次情報):Cognizantとのパートナーシップ拡大(Anthropic公式)