録音した会議を、あとで聞き直す。あの十分がつらい。誰が何を言ったかを起こしているうちに、話は次の議題へ進んでいる。音声の文字起こしは前からあったのに、雑音や専門用語や言い直しに弱くて、結局そのままでは使えなかった。手直しの手間を思うと、自分で打った方が早い。そう感じてきた人は多いはずです。
8月26日、Googleが新しい音声認識モデル Gemini 3.5 Transcribe を発表しました(発表はこちら)。うたい文句は、雑音・専門用語・言い直しに強いこと。「えーと」「あのー」といった言葉を自動で外し、整った文章の形にするといいます。Artificial Analysis の測定では、単語誤り率(聞き取りを間違える割合)がリアルタイム処理で4.0%、録音済みの処理で2.6%。録音音声なら、話した人を3人まで時刻付きで割り振れます。3人を超える割り当ては実験的とされています。
で、あなたの会社はどうすればいい
まず落ち着いて、提供の範囲を見ます。今は開発者向けと企業向けの公開プレビュー(試用版の先行公開)で、一般向けは Mac の Gemini アプリが英語、Android の Rambler が一部の国と言語から始まります。日本語で誰でもすぐ、とはソースに書かれていません。だからこれは「今日から使う道具」ではなく「近いうちに来るものへの備え」の話として読むのが正直なところです。
備えの中身は一つ。自社の言葉を書き出しておくことです。このモデルには、渡した専門用語や独特の表記に合わせて聞き取りを寄せる機能があります。取引先の社名、製品の型番、業界の略語。これを一覧にしておけば、文字起こしが使える段になったとき、精度の底上げがそのまま効くと考えられます。逆に、この一覧が無いと、どのサービスを使っても聞き間違いの手直しが残ります。
もう一つ、地味だが大きいのが速さです。発表では、以前のモデル Chirp 3 とくらべて、最終的な文字起こしが出るまでの時間が70%短くなったとされています。文字起こしで待たされると、人は声で入力する習慣そのものをやめてしまう。待ち時間が縮むと、話しかける、直す、また話しかける、が途切れずに回ります。対応する言語は自動判別で85を超えるとされ、言語をいちいち選ぶ手間も減る方向です。
RASHINの見立てでは、効いてくるのは議事録そのものより前の工程です。声で下書きを作り、あとで直す。打つのが遅い人ほど、この順番が合う。「えーと」を外して整った文の形にする、というのは、下書きの見た目が最初からそろうということです。ただし4.0%や2.6%という数字は Artificial Analysis の測定によるもので、あなたの会議室の雑音やなまり、専門語ではそのまま出るとは限りません。それでも、進む方向ははっきりしています。
試してみるなら
- まず五分、自社でよく出る言葉を書き出してください。社名・型番・略語・人名。表記も一つに決めます(「Resonix」と書くのか、カタカナで書くのか)。これは今日できて、どの文字起こしサービスにも効く準備です。
- Mac を使うなら、Gemini アプリの英語の文字起こしを一度だけ触ってみてください。言い直しや「えーと」が消える様子を英語で見ておくと、この飛距離が体でわかります。
- 次の会議を一つだけ録音し、今あなたが使える文字起こしにかけて、どこで間違えるかを見ておきます。間違える場所こそ、さきほどの言葉リストに足す候補です。
つまずきの先回り
- 提供の範囲に気をつけてください。一般向けは英語(Mac)と一部の国・言語(Android)から始まり、日本語で全員がすぐ使える、とは発表に書かれていません。導入の段取りを今日組む必要はありません。
- 話した人の割り振りは、録音音声で3人まで。参加者の多い会議では、誰の発言かがずれることがあります。3人を超える割り当ては実験的な扱いです。
- 4.0%や2.6%という数字は Artificial Analysis の測定値です(多言語の基準 FLEURS では別に5.50%と5.04%とされています)。いずれもあなたの部屋の雑音・なまり・専門語では変わります。目安として持ち、過信しないでください。
- 公開プレビューは途中経過です。使える範囲や仕様は、これから変わりえます。
明日できる小ささは、新しい設定でも申し込みでもありません。紙かメモ帳に、自社の言葉を十個だけ書き出すこと。それだけで、次に文字起こしが手に届いたとき、あなたの会社は最初の一歩ぶん先にいます。
出典(一次情報):Gemini 3.5 Transcribe 発表(Google公式)