新しく入った人に、機械の使い方を口で説明する。ひととおり教えて、三ヶ月後にまた別の人が入る。同じ手順を、同じ順番で、また最初から話す。三度目あたりで誰かが言います。動画にしておけばいいのに。それでも作られないのは、たいてい撮影で止まるからです。誰がカメラの前に立つのか。喋りを噛んだら撮り直すのか。その相談で会議が終わり、動画の話は次の忙しさに埋もれます。

Googleが7月16日、Google Vidsの新機能を発表しました。Google Vidsは、Google Workspaceに入っている動画作りの道具です。今回加わったのは二つ。ひとつは自分の分身を作る機能で、自撮り写真を一枚と、声を吹き込んだ録音を渡すと、自分に似た見た目と声で喋る映像が作れます。あとは喋らせたい文章を打ち込むだけです。もうひとつはGemini Omniという映像の作り直しで、背景を変えたい、もう少し明るくしたい、といった直しを文章で頼めます。作った映像にはSynthIDという目に見えない印が入り、AIで作ったものだと後から判別できるようになっています。

つまり、撮影という工程が消える

この発表がツクバの中小企業にとって何を意味するか。ひとことで言えば、動画を作らない理由の一番大きいものが減る、ということだと考えられます。

社内に動画が無い会社の多くは、作る気が無いわけではありません。台本はだいたい頭の中にあります。詰まるのはその先です。撮る場所を片付けて、照明を足して、社長か古株の誰かに前に立ってもらい、言い間違えるたびに撮り直す。この工程に半日かかると分かった時点で、話は静かに立ち消えます。写真一枚と短い録音で分身が作れるなら、この半日が、文章を打ち込む十五分に置き換わる余地があります。

向いている中身も、はっきりしています。毎年ほとんど変わらない説明です。工具の使い方、朝礼の段取り、来客時の受け答え、年に一度の棚卸しの手順。人が入るたびに口で繰り返してきた種類の話は、一度映像にしておけば、次からは、これ見といて、で済みます。逆に、その場の判断が要る仕事や、相手の顔を見ながら加減する説明は映像に向きません。渡せるのは手順であって、呼吸ではありません。

もうひとつ、社外向けにも使い道があります。会社案内の短い映像や、お客様への操作説明。外注すると数十万円かかっていたものを、まず自前の粗い版で作ってみて、反応を見てから磨く。この順番が取れるようになるのは、小さい会社ほど効いてくるところだと思います。完成品を一発で作らなくてよくなるからです。

試してみるなら

まず、自分の会社がGoogle Workspaceを使っているか確かめてください。Gmailの画面右上にあるアプリ一覧(点が九つ並んだ印)を開いて、Vidsという青いアイコンがあれば使えます。無ければ管理者に聞いてください。

最初の一本は、いま社内で一番よく口頭で説明している手順にします。台本は自分で書かなくて構いません。ChatGPTやGeminiに、次のように入力してみてください。

「新人向けに、次の手順を説明する動画の台本を作ってください。一分半で読み切れる長さ、話し言葉、専門用語は使わないでください。手順は以下です。(ここに手順を箇条書きで貼る)」

台本ができたら、ブラウザのアドレス欄に vids.new と打ち込みます。新しい動画の編集画面が開くので、アバターを作る項目から、自撮り写真と、指示された短い文章を読み上げた録音を登録します。あとは台本を貼り付ければ、分身が読み上げる映像ができます。最初から完成度を狙わず、一分の一本で止めてください。社内の三人に見せて、伝わるかどうかだけ聞きます。

つまずきの先回り

プランの壁が最初に来ます。この二つの機能は、Google AI ProとUltraの契約者、それにGoogle Workspaceのビジネス向け契約が対象です。個人の無料アカウントのままでは出てきません。会社でWorkspaceを契約していても、契約の種類によっては対象外の場合があるので、まず管理者に確かめるのが早道です。

アバターには制限があります。使えるのは18歳以上で、地域によっては提供されていません。日本ですぐ使えるとは限らないため、画面に出てこなくても故障ではありません。また、分身は本人のGoogleアカウントに紐付いていて、本人の見た目しか作れない仕組みです。社長の写真を総務が勝手に登録して喋らせる、という使い方はできないと考えてください。社長に出てもらうなら、本人に自分の分身を作ってもらうことになります。

AIで作った印のことも、先に知っておくほうがいいです。映像にはSynthIDという見えない印が入ります。これ自体は困るものではありませんが、社外に出す映像なら、AIで作ったと分かっても差し支えのない中身にしておくのが安全です。取引先へのお詫びや、重い話を分身に喋らせるのは避けたほうがいいでしょう。誠意を疑われる余地を、わざわざ作ることになります。

最後に一つ。声の吹き込みは、静かな部屋でやってください。事務所のエアコンの音や電話の呼び出し音が混ざると、分身の声にもその癖が残ります。昼休みの、誰もいない会議室が向いています。

明日やること

今日か明日のうちに、紙を一枚出して、この一年で三回以上口で説明した手順を書き出してみてください。三つ以上並んだら、動画にする値打ちがあります。一番上の一本だけ、来週作ってみる。それで十分です。

出典(一次情報):Google Vids gets powerful upgrades with Gemini Omni(Google公式ブログ)