社員が三人いる会社で、三人ともスマホでAIを開いている。一人は無料のChatGPT、一人は自分の財布で契約した有料版、残る一人はどう使えばいいか分からないまま、アプリだけ入れて放ってある。同じ会社なのに、AIとの付き合い方はてんでバラバラ。よく見る風景です。
そのバラバラを、OpenAIが逆から照らす発表をしました。7月30日ごろ、研究者向けにChatGPTを無料で配る ChatGPT for Academic Researchers を始めた、というものです。まず1万人、いずれ10万人。渡すのはGPT-5.6 Sol Proのような上位のモデル。目を引くのは、一人の研究者が同じ研究室の仲間を四人まで招いて、一つの作業部屋を共有できる点です。しかも入力した中身は、既定では学習に使われないと書かれています。
この発表は、うちの会社に何を意味するか
配られる相手は研究者で、つくばの中小企業は対象ではありません。だからこの話は、自分には関係ないと閉じてしまいがちです。けれど持ち帰れるのは、無料という条件ではなく、渡されている道具の形のほうです。
OpenAIが研究者に用意したのは、一人ひとりの私物ではなく、数人が同じ設定・同じ部屋で使う共有の場でした。五人の研究室が一つの部屋を持つと仕事が回るなら、五人の会社でも同じことが言えると考えられます。めいめいが私物アカウントでバラバラに使う今の状態は、全員が別々の電卓を自分の引き出しにしまい込んでいるのに近い。誰がどう使い、何を入れたのかが、会社の側から見えません。
共有の部屋にすると、変わるのは三つです。一つ、使い方の当たりはずれを、一度決めて全員で使い回せる。誰かが見つけた良い頼み方が、その人のスマホの中で終わらずに、会社の財産として残ります。二つ、入れてよい情報の線引きを、部屋の側に一度書けば全員に効く。三つ、社員が辞めても、私物アカウントと一緒に使い方のノウハウごと消える、ということが起きにくくなります。
試してみるなら
有料の話が先に来ます。共有の部屋は無料版ではなく、ChatGPTのTeamプラン(有料)で作ります。管理画面から社員のメールアドレスを入れて招くだけで、同じ部屋に人が増えます。
部屋を作ったら、最初に一つ、共有の指示文を置いておくと迷いが減ります。たとえばこう入力してみてください。「あなたは当社の文章の下書き役です。宛先が社外のときは敬体、社内メモのときは常体で書いてください。金額と個人名は伏せ字にしてから提案してください」。この一文を全員が使う設定にしておけば、誰が頼んでも文体がそろいます。
もう一つ。入れてよい情報と、入れてはいけない情報を、三行でいいので部屋の説明欄に書いておく。お客様の氏名は伏せる、見積の実額は伏せる、社員の給与には触れない、といった具合です。ここを決めておくと、新しく入った人に一から説明せずに済みます。部屋の説明を読めば、線引きが分かるからです。
つまずきの先回り
一番の落とし穴は、無料の私物アカウントの扱いです。プランによっては、入力した中身が既定で学習に使われる設定のことがあります。今回研究者に配られる部屋は既定で学習に使わない側ですが、社員が私物の無料版で会社の書類を読ませていると、そこは別勘定です。共有の部屋に移す理由は、料金よりまずこの一点にあると考えられます。
次に、Teamは人数分の席にお金がかかります。三人なら三席。使わない席を減らす、繁忙期だけ増やす、といった調整は管理画面でできますが、契約前に人数を数えておくと、あとが楽です。
最後に、部屋を作れば使い方が勝手にそろうわけではありません。共有の指示文を置き、入れてよい情報の線引きを書いて、はじめて部屋が効いてきます。器だけ先に契約して中身は各自任せ、では今のバラバラと変わりません。
明日できる小ささ
今日、契約する必要はありません。まずは紙を一枚。社員の名前を縦に書き、それぞれが今どのアカウントでAIを使っているか(無料か、私物の有料か、使っていないか)を横に書き足す。それだけで、会社のAIがどれだけバラバラかが一目で分かります。共有の部屋に移すかどうかは、その一覧を見てから決めれば十分です。