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新しい道具を一つ入れるたびに、ログインの画面が増えます。IDとパスワードを決めて、確認メールを開いて、二段階認証のコードを打つ。面倒なので、多くの人は「Googleでログイン」や「Appleでログイン」のボタンを押します。一回で済むからです。会社の中でも、誰がどのボタンで入ったのか、もう覚えていない。そういう状態が、たぶんあなたの会社にもあります。

8月2日、OpenAIが「Sign in with ChatGPT」を beta(試験公開)で始めました。ChatGPTのアカウントで、ほかのサービスにログインできる仕組みです。最初の対応先は Airtable、GitLab、HubSpot、Notion、Supabase、Vercel の6つ。押したときに相手のサービスへ渡るのは、名前とメールアドレス、それとプロフィール写真だけ。それ以外のデータに触るには、これまで通り一つずつ許可を出す必要があります(OpenAIの案内)。

便利さの話ではなく、入り口の話

これ自体は、よくある「◯◯でログイン」がもう一つ増えただけに見えます。機能としては、実際そうです。ただ、つくばの小さな会社にとって効いてくるのは、便利さより「どのアカウントで入るか」のほうだと考えられます。

理由は二つあります。一つは、相手に渡るのが本物のメールアドレスそのままだという点。Appleのボタンには、相手に見せる用の使い捨てメールを間に挟む仕組みがありますが、ChatGPTのボタンにはそれがありません。同じメールを使い回している人は、複数のサービスから「同じ人だ」と紐づけて見られる状態になります。

もう一つは、会社でありがちな私物アカウント問題です。多くの中小企業で、ChatGPTは社長や担当者の個人アカウントのまま使われています。そこに「ChatGPTでログイン」が加わると、会社の道具への入り口が、個人のアカウントにぶら下がる形になりかねません。

その担当者が辞めたとき、何が起きるか。個人アカウントに紐づいたログインは、会社の側から止めにくくなると考えられます。「Googleでログイン」で個人のGmailを使っていた人が退職して、権限を切るのに手間取った。あの話と、構造は同じです。だから分かれ目は、便利かどうかではなく、それが会社のアカウントか個人のアカウントか、のほうにあります。

試してみるなら

  • まず、自社で使っているサービスのログイン画面を開いて、「Sign in with ChatGPT」のボタンがあるか見てください。今は beta で対応先も限られるので、無ければ「まだ来ていない」だけの話です。あわてて設定することはありません。
  • ChatGPTに、今の状況を整理させてみます。こう入力してみてください。「うちの会社では、ChatGPTを私物のアカウントで使っています。『ChatGPTでログイン』を業務ツールの入り口にした場合、退職や引き継ぎで困りそうな点を、初心者にもわかる言葉で3つ挙げてください」。自分の会社の言葉で、危なさを書き出せます。
  • ボタンを使うかどうかの社内ルールを、一行だけ決めておきます。「会社の道具へのログインは、会社で契約したアカウントだけ」。これで、便利なボタンが増えても迷いません。

つまずきの先回り

  • いまは beta で、対応サービスも Airtable や Notion など海外の6つが中心です。日本の会計ソフトやグループウェアで使えるとは限りません。便利そうで飛びつく前に、自社の道具が対応しているかを先に見るほうが早いです。
  • 渡るのは本物のメールアドレスです。Appleの「メールを非公開」のような、使い捨てメールを挟む仕組みはありません。複数のサービスで同じメールを使うと、横断して同じ人だと見られます。個人情報の面で気になるなら、この点は覚えておいてください。
  • ログインを許すことと、データを渡すことは別です。名前とメール、写真は自動で渡りますが、その先の権限は一つずつ承認が要ります。ボタンを押した瞬間に中身まで全部つながる、という誤解はしないでください。
  • 一番の落とし穴は、個人アカウントと会社アカウントの混在です。私物のChatGPTを会社の道具の入り口にすると、あとでほどくのに苦労します。入り口は最初から会社のアカウントに寄せておくほうが、後が楽だと考えられます。

明日できる小ささ

明日、ボタンを一つ足すより先に、いまChatGPTを誰のアカウントで使っているかを一つだけ確かめてください。個人のものなら、それを会社のログインの入り口にはしない、と決める。それだけで、今日のニュースへの備えとしては十分です。

出典(一次情報):Sign in with ChatGPT(OpenAI公式ヘルプ)