朝、机に座って今日やることを思い浮かべる。見積書の作り直し、取引先へのお知らせ文、来週の会議の資料。どれも初めての仕事ではない。去年も先月も、似た形のものを作った。同じ型を、毎回ゼロから組み直している。その手応えに覚えのある人は、たぶん少なくない。

7月14日、AnthropicがClaude for Teachersというものを出した。アメリカの小中高の先生に、有料版のClaudeを一年間ただで使えるようにする、という話だ(発表はこちら)。ただし、ただ配って終わりではない。授業の指導案を、州ごとの学習の基準に合わせて組む。そういう「先生が毎週やっている仕事」を、あらかじめ道具の側に仕込んである。先生が一から事情を説明しなくても、AIが授業づくりの勝手をもう知っている状態で始められる。

つくばで会社をやっている人に、アメリカの先生向けの無料枠は関係ない。そこは正直に言う。では、この発表の何を持ち帰るか。

ただより、道具の「形」のほうが大事

見るべきは無料の部分ではなくて、道具の作り方のほうだ。Claude for Teachersがやっているのは、要するに二つ。一つは、ある職業の決まった仕事を、あらかじめ部品にしておくこと。もう一つは、その職業が普段使う材料(先生でいえば学習の基準や過去の課題)に、AIをつないでおくことだ。だから先生は「これはこういう仕事で」と毎回説明せずに済む。

これは、AIが「なんでも屋のおしゃべり相手」から「その仕事の事情を知っている助手」へ寄っていく動きだと考えられます。推論はここまでにしておく。ただ、形だけ見れば、同じことは会社でも小さく作れる。

うちの会社の「毎週の仕事」を、一度だけ型にする

先生に配られた仕組みの中身を、自分の会社に置き換えてみる。あなたの会社にも、毎週ほぼ同じ形で出てくる仕事がある。お知らせ文、見積りの体裁、問い合わせへの返信。これらは先生の指導案と同じで、毎回ゼロからではなく、一度作った型を呼び出せば足りる。

やり方は難しくない。会社でよく使う言い回しや、断りの一文、案内のひな型を、AIに一度渡して覚えさせておく。次からは「あの型で」と頼めば、事情の説明を飛ばして本題から始められる。会社の決まり文句を集めておく話は前にも書いた(→ 問い合わせメールの返信、型から作ると速い。AIに渡す「会社の決まり文句」の集め方)。今日の発表は、その進め方が大手のAI企業のやり方と地続きだったことを、横から裏づけてくれている。

もう一つ持ち帰れるのは、値段と対象の動きだ。今回のように「ある職業の人にだけ無料や割引で開く」やり方は、これから増えていくと考えられます。自分の業種の団体や取引先を通じて、AIの道具が安く使える案内が来ていないか。半年に一度は確かめておくと、払わなくていいお金を払わずに済むことがある。

試してみるなら

無料でできる範囲から始める。ChatGPTでもClaudeでも、まず一つ、会社の「型」を覚えさせてみる。

  • よく送るお知らせ文を一通、AIに貼り付けて、こう入力してみてください。「これはうちの会社の案内文のひな型です。文体と言い回しを覚えて、次からこの型で書いてください」
  • 次に、中身だけ変えた別件を頼む。「同じ型で、臨時休業のお知らせを作ってください。休むのは8月13日から15日です」と入力してみてください。ゼロから書くより、直しの量が減るのが分かる。
  • 気に入った型は、メモ帳に一つのファイルとしてためておく。使うたびに貼り直せば、それがあなたの会社の「仕込み済みの道具」になる。

つまずきの先回り

翌週つまずきやすいところを、先に言っておく。

  • 覚えさせた型は、同じ会話の中でしか続かないのが基本だ。窓を閉じて翌日に開くと、AIは前の型を忘れていることが多い。だから型は、手元のメモにも残しておく。会話の中だけに置かない。
  • 有料プランの「記憶」機能を使えば会話をまたいで覚えるが、無料と有料でここの挙動が違う。自分のプランでどこまで残るかを、一度小さく試して確かめてから頼りにする。
  • 型に、会社の個人情報や取引先の名前をそのまま入れない。ひな型は「宛名」「日付」を空欄にした形で覚えさせ、中身は使うときに差し込む。この線引きだけは、先に決めておく。

道具を配る側の発想を、道具を使う側が一つ借りる。今日できるのは、毎週送っているお知らせ文を一通、AIに覚えさせておくことだけでいい。それで来週の机が、少し軽くなる。

出典(一次情報):Introducing Claude for Teachers(Anthropic公式)