電話が鳴る。受話器を取りながら、手元の付箋に相手の名前と用件を走り書きする。「〇〇商事の田中さん、見積もりの件、折り返し」。書けた。安心して受話器を置く。そして三十分後、その付箋は請求書の束と資料の下に沈んでいます。夕方、机を片づけていて出てくる。もう誰の何の用だったか、自分の字が読めない。
これは、あなたの机だけの話ではありません。紙の電話メモは、書いた瞬間がいちばん値打ちが高く、そこから時間とともに下がっていきます。折り返す相手、期限、担当。三つとも頭にあるうちはいい。別の電話が入り、来客があり、昼になると、メモは机の地層の一部になります。
で、うちの会社はどうすればいい。答えはメモをやめることではありません。走り書きは速いし、電話中に画面を触るより手が動く。変えるのは、書いた後です。付箋を写真に撮って、AIに文字とリストへ直してもらう。それだけで、メモは机から出て、後から探せる形になります。
写真を撮る、それを渡すだけ
やることは二つです。スマホで付箋を撮る。撮った写真をChatGPTやGeminiのアプリに送って、読み取って整理してと頼む。手書きの字は、AIがそこそこ読みます。多少くせのある字でも、前後のつながりから拾ってくれることが多い。
読み取った後が本番です。ただ文字にするだけなら、写真のままでも困りません。頼みたいのは、折り返し先と用件と期限を並べた短いリストにすること。バラバラの走り書きが、そのまま今日の折り返し表になります。
一日ぶんの付箋を何枚かまとめて撮って、いっぺんに渡すこともできます。朝いちばんに前日ぶんを流し込めば、その日の電話仕事の段取りが、一枚で見える。誰に折り返すか、どれが急ぎか。机を掘り返さなくても、画面の中に並んでいます。
できたリストは、そのままにしないほうがいい。文字になっていれば、コピーしてメモ帳に貼るのも、社内のチャットに流すのも一手間です。外回りの担当に「この三件、午前中に折り返し」と送れば、机の付箋では届かなかった人にも渡ります。紙のままだと、書いた本人の机から動けない。文字にした時点で、はじめて持ち運べるようになります。
試してみるなら
まず一枚、いま机にある付箋で試します。スマホのカメラで正面から撮る。斜めより正面のほうが、字がゆがまず読み取りやすい。
その写真をChatGPTかGeminiのアプリで開いて、こう入力してみてください。
「この電話メモの写真を読み取って、折り返す相手・用件・期限の順に、箇条書きで書き出してください。読み取れない字は(不明)と書いてください。」
出てきたリストを見て、(不明)の所だけ自分で直す。全部を打ち直すより、ずっと速い。慣れてきたら、こう足します。
「急ぎのものを上に並べ替えてください。」
これで、優先順のついた折り返し表になります。ここまでは無料でできる範囲です。有料プランが要るのは、大量に一括で処理したい時くらいだと考えておくといい。
もう一歩やるなら、出てきたリストの最後にこう足します。「表の形にして、対応済みかどうかの列も付けてください。」折り返しが済んだ行に印を入れていけば、その日の電話仕事のやり残しが、ひと目で分かります。凝った道具はいりません。付箋と、いつも使っているアプリと、この頼み方だけです。
つまずきの先回り
一つ目。手書きの読み取りは、そこそこであって、完璧ではありません。数字の1と7、電話番号の下四桁あたりは、たまに取り違えます。折り返し先の番号だけは、送る前に自分の目で見比べてください。
二つ目。ここがいちばん大事です。電話メモには、お客様の名前や電話番号が載っています。それを外のAIに送るとき、その情報がどこへ行くのかを一度考える。個人向けの無料アプリでは、送った内容が学習に回る設定のこともあります。会社で使うなら、業務用のプランや、学習に使わない設定を選ぶ。この線引きは電話メモに限らずAIを仕事で使う入口の話なので、一度社内で三行だけ決めておくと後がらくになります。
三つ目。写真が暗かったり、ピントが甘いと、読み取りは途端に落ちます。机の影のなかで撮らない。付箋を一枚、明るい所に置いて撮るだけで、精度が変わります。
明日、一枚だけ
全部を仕組みにしなくていい。明日、電話メモが一枚できたら、その一枚だけ写真に撮って、リストに直してもらう。うまくいったら、机の上でいちばんよく消える付箋から、順に移していけばいい。メモを速く書く手はそのまま、消える所だけを直す。それが、机の地層を、少しずつ薄くしていきます。