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受信トレイに、知らない名前から丁寧なメールが届く。肩書きは海外のジャーナリスト、あるいは調査会社。文章はこなれていて、誤字もない。御社の取り組みを記事にしたい。業務を一部お願いしたい。忙しい手を止めて、つい返したくなる。相手が名乗りどおりの人かどうか、確かめる間もなく。

2026年10月8日、OpenAIが一本の報告書を公開した。AIを使って巧妙に偽装した組織や人物の工作を見つけ、関係するアカウントを止めた、という内容だ(AI を利用した「偽装組織・人物」による工作の阻止)。ロシアに由来する工作は、現地の事情を知らないラテンアメリカの人を取り込み、偽の調査機関を運営させていたとみられる。イランに由来する工作は、7人の架空のジャーナリスト名義で、世界各地の中小オンラインメディアに長文記事の掲載を売り込んでいた。確認できた記事は100本近くにのぼる。

だまされたのは、ごく普通の働き手だった

RASHINの見立てで引っかかったのは、派手な攻撃の話ではない。だまされていたのが、ごく普通の働き手だった点だ。小さなメディアの編集者。現地の調査スタッフ。偽の役所メールを受け取った学校。どれも、誰が何のために書いたものかを知らないまま、相手のコンテンツを世の中に通す入り口にされていた。

偽装組織・人物の工作とは、発信元を隠すために、実在するかのような人物や組織を間に立てるやり方だ。今回で言えば、架空のジャーナリスト、偽の調査機関、役所をかたる差出人。報告書によると、偽の音声や、体裁の整った偽の契約書まで作られ、一部はオンラインに出回ったという。本物らしい部品が、AIで手早くそろう時代になった。

OpenAIはこう書いている。AIは偽装工作の規模と効率を高め、より自然な言語表現や高度な編集を可能にする、と。裏を返せば、これまで文章のぎこちなさで見抜けた偽物が、見抜きにくくなったということだ。今回の工作で使われたのはロシア語やスペイン語、ペルシャ語、英語だが、同じことは日本語でも起きうると考えられます。つくばの会社に届く一通の売り込みも、例外ではないでしょう。中小企業は、大企業のような審査の壁が薄いぶん、こうした工作にとって通しやすい入り口に見えているのかもしれません。

ここから言えるのは、一段だけだ。相手の肩書きや文面の丁寧さは、本人確認の材料になりにくくなりつつある。AIが整えた文章は、整っていること自体が当たり前になる。だとすれば、確かめる先を文章から出どころへ、一つずらすだけでいい。送り主のアドレス、名乗った会社や媒体に本当にその人がいるか。手間は増えない。見る場所が変わるだけだ。

試してみるなら

怪しいと感じたメールの本文を、ChatGPTなどのAIに貼って、こう頼んでみてください。「この文章が、相手を信用させるために話を盛っていないか、確かめるべき点を箇条書きで出してください」。裏付けの足りない部分が、先に見えてきます。

名乗った会社名や媒体名は、検索窓で調べます。会社名のうしろに登記、媒体名のうしろに編集部と足して検索し、公式サイトに載っている連絡先と、メールの差出人アドレスが一致するかを見ます。

取材や業務委託の依頼なら、相手の電話番号を聞いて、一度こちらからかけ直します。AIは文章は作れても、その場の電話応対までは用意していないことが多い。声でのやり取りが、いちばん安い確認です。

つまずきの先回り

この規模の会社が狙われるはずはない、と考えがちです。けれど今回だまされたのも、中小の媒体や現地の働き手でした。規模の小ささは、確認の甘さと結びついたときに弱点になります。

AIに真偽の判定そのものを丸投げしないでください。AIは確かめるべき点を洗い出すのは得意ですが、本物か偽物かを言い切らせると、もっともらしい誤りを返すことがあります。最後の判断は人が持つ。これは今回のような相手を疑う場面ほど効いてきます。

添付のPDFや契約書の体裁が整っていることを、信用の根拠にしないでください。報告書では、AIで校正された偽の契約書の画像が出回り、登記簿に記載のない会社との契約を本物らしく見せる材料に使われていました。体裁は、今や誰でも整えられる。整っているかどうかではなく、出どころがたどれるかどうかで見ます。

出典(一次情報):AI を利用した「偽装組織・人物」による工作の阻止(OpenAI公式)