お盆が近づくと、そろそろあの一枚を書く時期が来ます。「夏季休業のお知らせ」。去年のファイルを開いて、日付を今年に直して、曜日を確かめる。書き上げて、店先に貼って、ウェブにも載せる。毎年やっているのに、毎年、去年のファイルを探すところから始まっている。手が覚えているのは書き方ではなく、去年のファイルの置き場所です。
お知らせ文は、年に何度か出るのに、めったに書きません。休業案内、価格改定のご案内、営業時間の変更、移転のお知らせ。どれも半年に一度あるかないか。だから書き方が手に馴染む前に、また忘れる。そして毎回、書き出しの一行で止まります。「平素は格別のご高配を賜り」から始めるべきか、もっと砕けていいのか。本題より先に、その前置きで時間が溶けていきます。
で、うちの会社はどうすればいい。答えは、文章のうまさを上げることではありません。一度だけ、自社の型を作っておく。あとは中身を差し替えるだけにする。この型作りを、AIに手伝ってもらいます。毎回ゼロから書くのをやめて、骨組みを一本だけ用意する。次からは、そこに今回の中身を流し込むだけにします。
お知らせ文は、いつも同じ部品でできている
お知らせ文をばらしてみると、並んでいる部品はいつも同じです。宛名の一言、前置きのあいさつ、今回の本題、いつからいつまでか、お客様へのお願いやお詫び、問い合わせ先、締めのあいさつ。中身が変わっても、この順番はほとんど動きません。動くのは、本題と日付だけです。
だからやることは一つ。この並びを、一度だけきちんと作る。AIに自社のお知らせ文の骨組みを作ってもらって、それを一つのファイルに保存しておきます。次にお盆休みの案内が要るとき、そのファイルを開いて、日付と本題の二か所だけ差し替える。前置きも締めも、もう考えなくていい。考える場所が、七か所から二か所に減ります。
一度作った型は、休業案内だけのものではありません。日付の欄を価格改定の日に変え、本題を値上げのお願いに書き換えれば、そのまま価格改定のご案内になります。骨組みが同じだからです。年に何度も来る「お知らせを書く」という仕事が、一枚のひな形の上で回るようになります。
硬さも、一度決めておく
前置きの硬さも部品の一つです。取引先へのお知らせは「平素は格別の」で始めたいし、近所のお客様への貼り紙なら、もう少しやわらかいほうが読みやすい。ここを毎回その場で迷うから、時間がかかります。
これも一度で片づきます。AIに骨組みを作らせたあと、「取引先向けの丁寧な版と、店頭の貼り紙向けのやわらかい版を、二つ作ってください」と足すだけ。硬い版とやわらかい版を並べて保存しておけば、次からは場面で選ぶだけになります。問い合わせメールの返信を型から作る話(→ 問い合わせメールの返信、型から作ると速い。AIに渡す「会社の決まり文句」の集め方)と、工程はまったく同じです。文面を毎回ひねり出すのをやめて、選ぶ仕事に変える。そこが手間の減りどころです。
試してみるなら
まず、いつも使っているChatGPTやGeminiを開いて、こう入力してみてください。
「中小企業のお知らせ文のひな形を作ってください。宛名、前置きのあいさつ、本題、対象の期間、お客様へのお願い、問い合わせ先、締めのあいさつ、の順で、本題と日付を空欄にした形でお願いします。」
出てきた骨組みを見て、自社の言い回しに近づけます。会社名や決まった連絡先を書き入れて、いらない部品は削る。これを一度、社内の共有フォルダに「お知らせ文ひな形」として保存しておきます。ここまでは無料でできる範囲です。
次に使うときは、その型を貼り付けてから、こう頼みます。
「この型に沿って、八月十三日から八月十七日まで夏季休業する案内文にしてください。」
日付と用件を変えるだけで、前置きから締めまで整った一枚が返ってきます。慣れてきたら、「取引先向けに丁寧な版も一つ」と足して、二枚持っておくと後がらくです。
つまずきの先回り
一つ目。日付と曜日は、AIまかせにしないでください。「八月十三日から」と伝えても、その日が何曜日かをAIが取り違えることがあります。休業の初日と最終日、その曜日だけは、カレンダーで自分の目で確かめてから貼る。ここを外すと、お客様が休みの日に来てしまいます。
二つ目。前置きのあいさつは、丁寧に振り切りすぎると、かえって用件が埋もれます。特に店頭の貼り紙は、通りすがりに読まれるもの。「いつからいつまで休むのか」が一目で分かることが先で、あいさつは後です。やわらかい版を作るときは、「本題を先に、あいさつは短く」と一言添えるといい。
三つ目。値上げやお詫びの案内は、型に流し込んで終わりにしないでください。お客様の受け取り方に関わる文面です。金額や理由の書き方は、出てきた文をそのまま出さず、一度声に出して読んでから決める。型は下ごしらえで、味を決めるのは最後まで人の側に残しておきます。
明日、一枚だけ
全部の文書を型にしなくていい。明日、次に出す予定のお知らせが一つあるなら、その一枚ぶんだけ骨組みを作ってみる。うまくいったら、共有フォルダに一枚だけ保存しておく。次に休業案内が要るとき、その一枚があるだけで、書き出しの一行で止まる時間が消えます。毎年探していた去年のファイルの代わりに、いつでも同じ場所にある型を、一枚。それだけで足ります。