AIを使ってみたい。その気持ちはあるのに、手が止まる。どこまで任せていいのか、何を入れたらまずいのか、社内で誰も決めていないからです。ひとりは勝手に使い始め、別のひとりは怖くて触らない。その温度差のまま、月だけが過ぎていく。つくばで会社を回している方なら、一度は見た景色だと思います。
2026年10月14日、AI開発会社のAnthropicが、シンガポールに新しい拠点を開いたと発表しました。アジア太平洋では5つ目の拠点です。あわせて、シンガポール政府(デジタル開発・情報省)と覚書を交わしました。協定の柱は、AIの安全性、セキュリティ、モデル評価、導入が社会に与える影響の研究、そして官民それぞれでの「責任ある導入」です。発表文には、中小企業が責任を持ってAIを使えるよう後押しする、という一文も入っています(発表はこちら)。
シンガポールは、Claudeの使われ方でも目立ちます。Anthropicの調べでは、人口あたりのClaude.ai利用が121か国中2位。国の大きさから予想される量の、およそ6倍だそうです。政府機関のGovTechでは1,500人を超える技術者がClaude Codeを使い、配車のGrabでは営業支援の仕組みが四半期ごとにおよそ4万時間を浮かせている、と発表文は書いています。数字だけ見ると、別世界の話に見えるかもしれません。
で、あなたの会社はどうすればいい
ここで真似したくなるのは規模の話です。でも、我々が受け取りたいのはそこではない、とRASHINは考えます。協定の言葉で何度も出てくるのは「責任ある導入」と「信頼」でした。署名した政府高官は、会社も働く人も一般の人々も安心して使うには信頼が要る、という言い方をしています。共同創業者のほうは、能力と安全はセットで進めるものだと述べています。速さと安心は、どちらかを選ぶのではなく、両方そろえて考えるものだという整理です。
面白いのは、信頼が重い業種ほど、AIを避けていないことです。発表文によると、東南アジア最大手の銀行DBSは、厳しい安全と管理の枠組みの中でClaudeを使っています。金融のように規制の厳しい業種は、データを決められた場所で処理する仕組みの上でAIを動かせるようになった、とも書かれています。避けるのではなく、枠を先に決めてから使う。顧客の情報を預かるという点では、つくばの会社も同じ側に立っていると考えられます。
言い換えると、道具を増やす前に、使う順番を決める。これなら今日の手元でできます。シンガポールの制度はシンガポールの話で、そのまま日本の中小企業に下りてくるわけではありません。でも「決めてから使う」という順番だけは、規模に関係なく真似できるはずです。
試してみるなら
紙でもメモアプリでも、三行だけ書いてみてください。
- 入れていいもの(例、公開済みの文章、社名の入らない下書き)
- 入れないもの(例、顧客の名前や住所、見積の金額、採用の応募書類)
- 迷ったら聞く相手(例、まず担当の○○さんに相談してから)
頼み方そのものも、責任ある使い方の一歩になります。議事録を整えたいときは、「この文章から個人名と会社名を伏せ字にして、要点だけ箇条書きにしてください」と入力してみてください。中身を丸ごと渡す前に、渡していい形へ削るクセがつきます。社外に出すメールの下書きなら、「固有名詞は伏せたまま、言い回しだけ丁寧にして」と頼めば、相手の名前を預けずに文面だけ直せます。
つまずきの先回り
- 「無料だから安心」とは限りません。無料のプランは、入れた文章がAIの学習に使われる設定になっていることがあります。設定画面で、学習に使うかどうかの項目を一度だけ確かめてください。
- 三行ルールは、一度貼って終わりにすると形だけになります。新しい道具を入れた週に、同じ三行を読み直す日を決めておくと続きます。
- 「責任ある導入」を、立派な規程づくりだと思い込まないこと。A4一枚で足ります。重いほど、誰も読まなくなります。
- 入れてはいけないものを、入れたあとに気づく事故が一番多い。貼りつける前に一拍置く。この順番だけで、ほとんどの失敗は防げます。
大きな協定のニュースでも、あなたの会社が明日やることは小さくていい。入れていいものと、入れないものを、一行ずつ。それだけで、止まっていた手が少し動きます。
出典(一次情報):Anthropic