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朝、経理の担当者が見積書の文面をChatGPTに貼って、やわらかい言い回しに直してもらう。営業が、届いたクレームメールを要約させて、返信の下書きを作らせる。どちらも助かる使い方です。問題は、その見積書に取引先の社名と金額が入っていて、クレームメールにお客さんの名前と住所が残っていたときに、誰も止める人がいないことです。

AIは速くて便利で、だからこそ、考える前に手が動きます。つくばの中小企業で今いちばん多い困りごとは、使うなという話でも、全部許すという話でもありません。「どこまで入れていいのか、誰も決めていない」という宙ぶらりんです。禁止すれば現場は隠れて使い、放っておけば大事な情報が社外のサーバーに流れる。間に立つ線が、一本も引かれていないのです。

線は長い規程ではなく、三行でいい

立派な情報セキュリティ規程を作る必要はありません。読まれない十ページより、全員が覚えている三行のほうが、現場では強い。RASHINが考えるのは、壁に貼れる長さまで削ることです。

一行目。名前が残るものは、名前を消してから入れる。社名、人名、取引先、お客さんの連絡先。これらは伏せ字に置き換えてから貼る。文章の意味はそれでも通ります。

二行目。まだ外に出していない数字と企画は、入れない。見積の原価、来期の計画、公表前の新商品。世に出ていないものは、出してから使う。

三行目。迷ったら、入れない。この一行がいちばん効きます。判断に詰まった時点で、それは入れないほうがいい情報だ、という合図だからです。

三つとも、禁止ではなく手順です。使うのをやめさせるのではなく、「貼る前にひと呼吸」を全員の癖にする。それだけで、事故の多くは入り口で止まります。

なぜ「消してから」で足りるのか

AIに社名入りの文章を見せても、その場で世界に公開されるわけではありません。ただ、入れた内容が後の学習に回る場合があり、どこに残るかを我々の側からは追えない。だから発想を逆にします。流れて困るものを、最初から渡さない。渡す前に名前を抜いておけば、万一どこかに残っても、それが誰のことか分からない状態になります。

名前を消す作業は、人がやると面倒で、面倒だから省かれます。そこはAI自身にやらせてしまうのが現実的です。下書きを頼む前に、まず伏せ字化だけを一回頼む。二度手間に見えて、これが線引きを現場に根づかせるいちばん楽な形です。

線を引くもう一つの利点は、使っていいものがはっきりすることです。禁止の張り紙だけだと、現場は「何がだめなのか」を推し量りながら、結局こわくて使わなくなる。三行で「ここまでは入れていい」と示せば、残りの大半の仕事は堂々とAIに任せられます。守りの線は、同時に、安心して使うための線でもあります。

試してみるなら

貼る前のひと手間を、そのままAIに頼む文例です。無料のプランでもできます。

  • 伏せ字にしてから使う。「次の文章から、会社名・人名・取引先名・住所・電話番号を、A社・B氏のような伏せ字に置き換えてください。意味は変えないでください」と入力し、その下に元の文章を貼る。返ってきた伏せ字版を、要約や下書きに使う。
  • 判断に迷ったら相談する。「この文章を社外のAIに入れても問題ないか、含まれている個人情報や未公表の情報を挙げて教えてください」と入力し、文章を貼る。入れていいかの最終判断は人がしますが、見落としを拾う二人目の目にはなります。
  • 三行を一枚にする。さきほどの三行を紙に印刷し、AIを使う人の机の見える場所に貼る。ルールは、思い出せる場所にある時だけ守られます。

つまずきの先回り

  • 入れた内容が学習に使われるかは、プランで違う。個人の無料プランと、仕事用のプラン(ChatGPT Business など)では、入力の扱う範囲が異なります。契約しているプランの設定を一度だけ開いて、学習に使わない設定があるか確かめておく。ここは提供元や時期で変わるので、思い込みで判断しない。
  • 「消したつもり」で消えていないものがある。本文の社名は消しても、ファイル名、メールの署名欄、文書のヘッダー、画像に写り込んだ画面に、名前が残ります。貼る対象が添付ファイルや画像のときは、本文より気づきにくい。開いて中身まで見てから渡す。
  • 添付ファイルは本文より無防備になりやすい。PDFやExcelをそのまま読ませると、人の目が通っていない行まで一度に渡ります。本文の三行と同じ線を、ファイルにも当てる。

便利さを削る必要はありません。今日できるのは、三行を紙に書いて一枚貼ること。それだけで、明日から全員の「貼る前のひと呼吸」が始まります。