月末の午後、机の上にA4の束が積まれる。取引先から届いた長い価格表のPDF、去年の決算書、それに毎週ほとんど同じ文面で送っている進捗のメール。読むのも書くのも、中身はわかっているのに手だけが止まる。この「わかっているのに時間を取られる」帯を、どう薄くするか。多くの会社で、ここがいちばん静かに削られている時間だと思います。
そこへ関わる発表が一つ出た。Googleが8月13日、Gemini 3.7 Flashを公開した。コードづくりと、自動で段取りを進める仕組み向けの、同社いわく最も賢い「働き者」モデルだという。前の版のGemini 3.6 Flashからわずか三週間での更新で、ソフト開発・知識仕事・Web制作の場面で精度が上がったとされる。目を引くのは値段だ。年末までの導入価格として、100万トークンあたり入力0.75ドル・出力3.75ドル。前の版のちょうど半分に置かれた(発表はこちら)。
数字とベンチマークが並ぶ発表なので、大半は作り手向けに読める。ただ二つだけ、机の上の話に翻訳できる。
一つ。このモデルは複雑な書類を処理する力が上がった、と書かれている。長いPDFから必要な数字だけ抜く、表がまざった資料を要点だけに畳む、といった下ごしらえが、以前より少ない手戻りで済むと考えられます。月末にいちばん増えるのが、この「読んで写す」だけの作業です。
二つ。発表によれば、8月13日からGoogle AI ProとUltraの契約者が使うGemini Sparkが、この新しいモデルを使い始める。Sparkは本人の指示のもとで動く常駐の代行役で、ファイルをまとめる、メールの下書きを作る、状況をまとめた書類を更新する、といった作業を任せられるとされる。つまり、さっき積まれていた束の一部は、契約があれば預けられる、という話になる。
RASHINの見立てでは、今日あなたの会社が乗り換えを急ぐ発表ではない。効いてくるのは「値段が半分」という方向性のほうだ。借りて使うAIの単価は、こうして下がり続けている。だから長い縛りの契約や、一つのモデルに合わせた作り込みに、今は深入りしない。むしろ安くなった分を、月末の雑務を一つだけ預けてみる実験に回す。それくらいの距離が、ちょうどいい。
試してみるなら
有料のGoogle AI ProかUltraが前提になる(無料プランは、今回の提供先の一覧に入っていない)。契約があるなら、Sparkに雑務を一つだけ渡してみる。
- 長い書類の要約。決算書や価格表のPDFを渡して、「この書類から、売上と経費の項目だけを抜き出して表にしてください」と入力してみてください。全文をきれいに読ませようとせず、欲しい列だけ頼むのがコツです。
- 定型メールの下書き。「毎週の進捗報告メールを、次の三点を入れて作ってください」と、要点だけ箇条書きで渡す。文面はあとで自分の言葉に直す前提で頼むと、気が楽です。
- 状況メモの更新。前回のメモを貼り、「今日の分を足して、変わった箇所だけ太字にしてください」と頼む。ゼロから書き直させない。
最初の一回で満点は出ない。頼み方を一言ずつ足していくほうが、結局は速い。
つまずきの先回り
- 無料プランでそのまま使えるとは書かれていない。発表が挙げた提供先は、開発用のAPI、企業向けの窓口、そして有料契約者のSparkまで。手元のGeminiが自動でこの版に変わるとは限らない。
- 値段は「導入価格」で、年末までと明記されている。来年からどうなるかは発表に書かれていない。試すのはよいが、これを前提に一年分の予算を固めない。
- トークンあたりの単価は作り手向けの目安で、アプリからそのまま使うぶんには直接の請求ではない。「半額」は主に、自分で組んで使う人の話だと押さえておく。
- 書類やメールを預けるなら、社外秘や個人情報がどこまで混じっているかを、渡す前に一度だけ自分の目で見る。代行役は速いが、中身の線引きは人の仕事のまま残る。
預けるのは、まず一つでいい。今週いちばん気の重い書類を選んで、要約だけ頼んでみる。うまくいけば、机の上の束が一段だけ低くなる。それを確かめてから、次を渡すかどうか決めればいい。