社労士のAI活用
社労士で、AIにできること
士業のAI活用には、他の業種にない前提がひとつあります。独占業務との線引きです。労働社会保険の申請書類の作成と提出代行は、社会保険労務士法に基づく社労士の独占業務。AIの持ち場はその手前の「下書きと下ごしらえ」まで。最終判断と責任は資格者本人。この線を最初に引いたうえで、実例を見ていきます。
実例①
就業規則と規程を、ドラフトから始める
企業の業種・規模・要望を渡すと、就業規則のたたき台が数分で出てくる。この使い方で、ある社労士事務所は就業規則の初稿作成にかかる時間を従来の約3分の1に短縮したと紹介されています。従来の「ゼロから作る、または古いひな型を直す」が、「AIのドラフト+社労士の専門的チェック」に変わり、提案のスピードが上がった、という報告です。法令リサーチも「この法律の直近の改正点を一覧に」と頼めるようになりました(一次情報との照合は前提です)。
出典: 44jyuku.com
士業全体でも、生成AIの利用率は66%に達したという調査が紹介されています。使うかどうかの段階は、すでに過ぎつつあります。
出典: 44jyuku.com
実例②
給与計算と手続きの、確かめ算
給与計算そのものは専用ソフトの仕事ですが、AIはその「確かめ算」に効きます。変形労働時間制やフレックスの複雑な残業代計算のロジック確認にAIを使い、ダブルチェックの精度を上げる実践が紹介されています。企業側の事例ですが、給与計算のAIチェック機能の導入で3日かかっていた業務が1日で終わり、ミスが月平均5件から0.5件に減ったという報告もあります。36協定の上限超過や有給取得義務の未達を検知するアラートなど、「見落とすと重い」領域の見張り役としての使い方も広がっています。
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出典: senkousha.or.jp
実例③
相談の下ごしらえと、事務所の底上げ
労務相談は毎回テーマが違い、調査の初動に時間を取られます。AIに初期リサーチと論点整理を任せ、社労士は判断と顧問先への説明に集中する分担が紹介されています。助成金の要件確認や計画書の文案づくり、面談議事録の下書き、入退社手続きのチェックリスト生成も同じ型です。就業規則改定の相談が来たら、現行規程の該当条文の抽出から改定案のたたき台までを手順化し、判断が要る箇所だけ社労士に上げる、という運用も示されています。
出典: 44jyuku.com
出典: nocode-sol.co.jp
AIに渡してはいけないもの
この業種は、線引きの話が実例と同じくらい大事です。
- 独占業務。 申請書類の作成・提出代行の結論をAIに出させて、社労士の確認なしに進める運用は資格制度の趣旨に反します。ドラフトと点検の補助まで、判断と提出の意思決定は本人。ここは動きません。
- 従業員の情報。 社労士が扱うのは、給与、評価、健康情報という機微度の高い個人情報です。個人契約の無料・低額プランに顧問先の従業員情報を入れるのは危険で、入力を学習に使わない法人向け契約で、名前を伏せて使うのが業務利用の前提とされています。
- 法令の記述。 生成AIは、古い制度や存在しない要件をそれらしく書くことがあります。法改正が毎年のようにある分野だからこそ、法令に触れる文章は一次情報(条文・厚生労働省)で確認してから出す。この確認工程を省いた効率化は、効率化ではありません。
出典: senkousha.or.jp
出典: nocode-sol.co.jp
つくばの事務所に翻訳すると
つくば周辺の社労士の顧問先は、このサイトで扱っているような中小の会社です。人手不足、採用難、毎年の法改正。顧問先の悩みはすべて労務に流れ込んでいて、相談は増える方向にしかありません。
そして税理士と同じ構造がここにもあります。事務所のAI活用は、そのまま「顧問先にAIのことを聞かれたときに、自分の実践から答えられる」という営業資産になります。就業規則をAIのドラフトで速く出せる事務所は、顧問先の社内規程やマニュアルづくりの相談にも同じ型で応えられる。効率化と提案力が、同じ一本の練習でつながっている業種です。
順番は、①議事録と文書ドラフトから始めて、②就業規則・規程のドラフト活用、③相談リサーチと事務所ナレッジの整備へ。給与計算はいまのソフトの機能を使い切るのが先です。
よくある質問
Q. AIに仕事を奪われる士業と言われますが。
自動化が進むのは書類の下書き・転記・確認です。労使の間に立つ判断、顧問先の実情を踏まえた助言、トラブルの見立てはAIの外側で、相談が増え続けるこの分野では、処理能力を上げた事務所ほど受けられる仕事が増える方向の変化です。
Q. 顧問先に「AIを使っているのか」と聞かれたら。
使っている範囲と確認体制を正直に言えるのが一番強い答えです。「下書きにAIを使い、内容の確認と判断はすべて社労士が行っています」と業務フローごと説明できる状態を作ることが推奨されています。
Q. 所員が個人アカウントでバラバラに使っていて不安です。
一番多い事故の入口です。扱う情報の機微度を考えると、この業種では特に。法人契約への一本化と、入力禁止情報のルールを一枚作るところが出発点になります。この整備も相談で一緒にできます。
最初の一歩
直近に作った就業規則か規程をひとつ思い出して、初稿に何時間かかったかをメモしてください。その数字が、AIのドラフトで最初に縮む場所です。
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→ 関連記事: 「AIが苦手なこと」 「時間の棚卸し」
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